筑波大学芸術専門学群の入試対策において、デッサンは非常に重要な実技対策の一つです。特に「手のデッサン」は、形を正確に取る力、立体として捉える力、陰影を整理する力、そして限られた時間の中で完成度を高める力が求められます。
しかし、受験生の中には「手の形がうまく取れない」「指が細くなりすぎる」「陰影をつけると不自然になる」「2時間でどこまで描き込めばよいかわからない」と悩む人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、ツクガク講師による「2時間でモチーフなしの手のデッサンを描く」解説動画をもとに、筑波大学芸術専門学群を目指す受験生向けに、手のデッサンの進め方、時間配分、観察のポイント、描き込みのコツをわかりやすく解説します。
目次
手のデッサンで用意するもの
まず、手のデッサンを始める前に、必要な道具をそろえておきましょう。動画では、鉛筆、練り消し、ガーゼ、クリップ、画用紙、木製パネルまたはイラストレーションボードが紹介されています。
鉛筆は、6Bから4H程度まで用意しておくと安心です。6B、4B、B、HB、F、H、2H、3H、4Hなどをそろえることで、濃い影から細かな描写まで対応しやすくなります。特にFの鉛筆は汎用性が高く、手の質感を整えたり、画用紙の目を潰したりする場面で使いやすいため、必ず持っておきたい鉛筆です。
練り消しは、使う前によく揉んで柔らかくしておくことが大切です。細く尖らせれば、光が当たっている部分を白く抜く表現にも使えます。また、ガーゼは陰影をぼかしてグレートーンを作るために使います。強くこすりすぎると画面が汚くなってしまうため、軽い力で使うことを意識しましょう。
画用紙はザラザラした面が表になります。イラストレーションボードや木製パネルの上に置き、クリップ2個でしっかり固定してから描き始めましょう。試験本番を意識するなら、机に平置きするだけでなく、パネルを少し立てかけて描く練習もしておくとよいです。
まずはエスキースで構図を決める
いきなり本番の画用紙に描き始めるのではなく、まずはエスキースを描きます。エスキースとは、本番の画面にどのようにモチーフを配置するかを確認するための小さな下描きです。
手のデッサンでは、画面の中に手をどのくらいの大きさで入れるか、どの向きで配置するか、どこから光が当たっているかを最初に決める必要があります。ここで構図が曖昧なまま進めてしまうと、途中で手が小さくなりすぎたり、画面の端が余りすぎたりして、迫力のないデッサンになってしまいます。
ただし、エスキースに時間をかけすぎる必要はありません。理想は5分から10分程度です。エスキースは、細かく描き込むためのものではなく、画面全体のバランスを確認するためのものです。慣れていないうちは少し丁寧に描いてもよいですが、本番の画用紙で形を取る時間を確保することを優先しましょう。
手は「箱」と「球体」で捉える
手のデッサンで最も大切なのは、手の形を正確に捉えることです。手は複雑な形をしているため、最初からシワや爪などの細部に意識が向いてしまうと、全体のバランスが崩れやすくなります。
そこで重要なのが、手を「箱」と「球体」の組み合わせとして考えることです。手のひらや指の節は箱のような立体として捉え、関節部分は球体として考えます。指は単なる細い棒ではなく、複数の箱と球体がつながってできていると考えると、立体感を出しやすくなります。
手首も同じです。手首を単なる円柱のように描くと、実際の手首らしさが出にくくなります。手首には平たい面や骨の出っ張りがあり、角ばった形をしています。そのため、手首は丸い筒ではなく、角柱に近い立体として捉えると自然に見えます。
このように、手をパーツごとに単純な立体へ置き換えて考えることで、陰影をつけるときにも迷いにくくなります。どの面が光を受けていて、どの面が影になるのかを整理しやすくなるためです。
指と手のひらは「1対1」の比率を意識する
手の形を取るときに注意したいのが、指と手のひらの比率です。動画では、指と手のひらの長さがだいたい1対1に見えるように描くことがすすめられています。
実際の手の形は人によって異なります。指が長い人もいれば、手のひらが大きい人もいます。しかし、デッサンとして見たときに、指が極端に長すぎたり、手のひらが大きすぎたりすると、不自然な印象になってしまいます。
そのため、最初は「指と手のひらが同じくらいの長さに見えるか」を確認しながら描きましょう。特に初心者の場合、描いているうちに指が長くなりすぎたり、逆に短くなりすぎたりすることがあります。途中で何度も画面から離れて、全体の比率を確認することが大切です。
また、指先を細くしすぎないことも重要です。初心者のデッサンでは、指先が尖ったように細くなってしまうことがあります。しかし、実際の指は、先端に向かって急激に細くなるわけではありません。関節部分には少し膨らみがありますが、指全体の太さは大きくは変わりません。
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本番の画用紙には薄く描き始める
エスキースで構図を決めたら、本番の画用紙に移ります。このとき、最初から濃い線で描かないことが大切です。濃く描きすぎると、あとで形を直したいときに線が残りやすく、画面も汚くなってしまいます。
動画では、4B程度の鉛筆を使い、非常に薄く描き始めています。6Bのような濃い鉛筆は、こすったときに跡が残りやすいため、最初の形取りにはやや扱いが難しいです。慣れてきたら2B程度でも構いませんが、最初のうちは4Bくらいで薄く形を取るとよいでしょう。
画用紙に描くときは、まず手のひらの大きさを決めます。手のひらが決まったら、指の付け根を4等分します。人差し指、中指、薬指、小指の付け根の幅は、実は大きくは変わりません。
小指は細いという意識が強すぎると、小指だけ極端に細くなり、不自然な手になってしまいます。まずは付け根を4等分し、そこからそれぞれの指の方向や長さを決めていくことで、自然なバランスを取りやすくなります。
形取りでは「指として見ない」ことが大切
手を描くとき、多くの人は「これは指だ」「これは手のひらだ」と認識しながら描いてしまいます。しかし、その意識が強すぎると、自分の中にある手のイメージに引っ張られ、実際の形からズレてしまうことがあります。
そこで大切なのは、指を指として見るのではなく、ただの図形として見ることです。どの方向に伸びているのか、どのくらい曲がっているのか、隣の指との間隔はどのくらいか、指先はどの位置にあるのかを、冷静に観察します。
これは石膏像を描くときにも同じです。石膏像を「顔」として見すぎると、自分のイメージで補ってしまい、実際の形を正確に取れなくなることがあります。手も同様に、「手の形をした立体」として捉えることで、主観に惑わされにくくなります。
形取りには、最初のうちは15分から25分程度かけても構いません。形が大きく崩れたまま陰影に入ってしまうと、最後まで違和感が残ります。陰影や質感がうまく描けていても、手の形そのものが不自然だと、完成度の高いデッサンには見えません。
陰影は光源を明確にしてから描く
形が取れたら、次に陰影をつけていきます。陰影をつける前に、必ず光源の位置を明確にしておきましょう。動画では、画面の端に太陽のマークのような印を描き、どちらから光が当たっているかを確認しています。
光源の位置を忘れてしまうと、影の方向がバラバラになり、立体感が弱くなります。手のどの面に光が当たり、どの面が影になるのかを整理してから描き始めましょう。
最初は3Bや2Bなどを使って、大まかな影をつけます。この段階で重要なのは、いきなり細部を描き込まないことです。まずは手全体の明暗を大きく捉え、関節や指の丸みを意識しながら、影の範囲を決めていきます。
影をつけるときは、実際に自分の手を触って確認することも有効です。関節がどのように盛り上がっているのか、手のひらの筋肉がどこで膨らんでいるのかを触って感じることで、より立体を理解しやすくなります。
ガーゼでグレートーンを整える
大まかな陰影をつけたら、ガーゼを使ってトーンをぼかします。手のデッサンでは、肌のやわらかくマットな質感を表現するために、きれいなグレートーンを作ることが重要です。
ガーゼを使うことで、鉛筆の線がなじみ、画面全体に自然なトーンを作ることができます。ただし、すべてを均一にぼかせばよいわけではありません。奥にある部分や遠くに見える部分はしっかりぼかし、手前にある部分や形をはっきり見せたい部分はぼかしすぎないようにします。
また、ガーゼでぼかした後は、練り消しで輪郭や光の部分を整えます。ぼかしっぱなしにすると、輪郭が曖昧になったり、画面全体が眠い印象になったりします。練り消しを細く使い、必要な部分の白を戻すことで、画面が引き締まります。
終盤はF・H系の鉛筆で描き込む
デッサンの終盤では、F、H、2H、3H、4Hなどの硬い鉛筆を使って描き込んでいきます。この段階の目的は、画用紙の目を潰しながら、手の質感を高めることです。
柔らかい鉛筆だけで描いていると、線が粗く見えたり、画用紙のザラザラが残ったりします。硬い鉛筆で細かな線を重ねることで、肌の質感や関節の立体感を表現しやすくなります。
特に重要なのは、光が当たっている面の情報量を増やすことです。影の部分を黒くするだけでは、手らしさは十分に出ません。爪のツヤ、皮膚のシワ、指の丸み、手首の骨ばった感じなど、光が当たっている部分に細かな情報を加えることで、完成度が大きく上がります。
また、鉛筆は常に尖らせた状態で使いましょう。先が丸くなった鉛筆では、線が鈍くなり、丁寧に描いていても上手に見えにくくなります。細部を描き込む終盤ほど、鉛筆の状態に気を配ることが大切です。
爪・手首・指先まで丁寧に処理する
手のデッサンで差がつくのは、指の形だけではありません。爪、手首、指先、手首の端の処理など、細かな部分をどれだけ丁寧に描けるかで、全体の完成度が変わります。
特に爪は、手の質感を表現するうえで重要なパーツです。爪をただ濃く塗るのではなく、H系の硬い鉛筆を使って、形やツヤを丁寧に表現しましょう。爪の光り方が自然に描けると、手全体のリアリティが増します。
手首の描写も重要です。手首の端が白く抜けたままだと、手が途中で切れているように見えてしまいます。画面の端までしっかり描き込み、最後まで完成度を保ちましょう。
また、手は有機物です。工業製品のように均一な形ではなく、関節の膨らみ、骨の出っ張り、筋肉の流れがあります。終盤では、そうした有機的な形を意識して描き込むことで、より手らしいデッサンになります。
残り5分は練り消しで光を抜く
最後の5分では、練り消しを細く尖らせ、光が当たっている部分を白く抜いていきます。このとき、ただ消すのではなく、指や手首の丸みに沿って、鉛筆で描くような感覚で抜くことが重要です。
白く抜くことで、光の表現が強まり、手の立体感が増します。ただし、抜いたままにすると不自然になる場合があります。その場合は、4Hなどの硬い鉛筆で軽く描き足し、周囲となじませましょう。
この「抜く」と「描き足す」の作業を繰り返すことで、画面の完成度が高まります。最後の数分でも、作品の印象は大きく変わります。時間がないからといって手を止めるのではなく、最後まで調整を続けることが大切です。
描き終わったら必ず振り返りをする
デッサンは、描いて終わりではありません。描き終わった後の振り返りこそ、上達のために重要です。
作品が完成したら、エスキース帳などに日付、制作時間、モチーフ、できなかったこと、できたことを書き残しましょう。たとえば、「書き込みが足りなかった」「手の形取りが甘かった」「指が太く短くなった」「色幅が少なかった」など、具体的に記録します。
同時に、うまくいった点も必ず書きましょう。「曲線の表現がうまくいった」「手首の立体感が出せた」「爪の描写が前回より良くなった」など、小さな成長を記録することが大切です。
講師からフィードバックをもらった場合は、その内容も同じ場所に書き残しておきましょう。自分では気づけなかった課題を記録しておくことで、次のデッサンに活かしやすくなります。
筑波大学芸術専門学群を目指すなら継続が重要
手のデッサンは、最初からうまく描けるものではありません。形を取るだけでも難しく、陰影や質感まで表現しようとすると、思うようにいかないことも多いでしょう。
しかし、手のデッサンは描けば描くほど上達します。最初はうまく描けなくても、1か月ほど続けると、形の取り方や陰影のつけ方に少しずつ慣れていきます。
また、合格者の作品を模写することも有効です。特に、多摩美術大学や武蔵野美術大学などの受験生の手のデッサンは、明暗のつけ方や関節の表現がわかりやすく、基礎練習として参考になります。
一方で、東京藝術大学のデッサンはモチーフ数が多く、完成度も非常に高いため、最初から模写するには難易度が高い場合があります。まずは自分のレベルに合った作品を参考にしながら、手の形、明暗、質感を少しずつ身につけていきましょう。
まとめ
筑波大学芸術専門学群のデッサン対策では、限られた時間の中で、形、構図、陰影、質感をバランスよく仕上げる力が求められます。
特に手のデッサンでは、指や爪だけに注目するのではなく、手のひら、手首、関節、光源、画面全体の構図まで意識することが大切です。
まずはエスキースで構図を確認し、手を箱と球体の組み合わせとして捉えましょう。指と手のひらは1対1の比率を意識し、形取りでは指を図形として観察します。陰影では光源を明確にし、ガーゼでグレートーンを整え、終盤はF・H系の鉛筆で質感を高めます。
そして、描き終わったら必ず振り返りを行い、次回の課題を明確にしましょう。手のデッサンは、自分との戦いです。最初は思うように描けなくても、毎回の作品を振り返り、フィードバックを受けながら改善していけば、必ず上達していきます。
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